2要因理論(動機づけ・衛生理論)について

 

【1】ハーズバーグは、仕事への満足(そしてモティベーション)に関連する諸要因と、仕事への不満足を生み出す諸要因は別物と考えました。つまり、満足の反対概念は不満足ではない、ということです。

1)動機づけ要因 〜 成長ないし職務に内在する。仕事における意欲要因。
 ex)達成、達成の承認、仕事そのもの、責任感、進歩、個人的な成長など
   (特に最後の3つが重要)
 ・動機づけ要因が満たされていなくとも不満足にはならない。しかし、満たされるこ  とでやる気につながる。

2)衛生要因 〜 不満足の回避ないし仕事以外のところに存在する。仕事における環         境要因。

 ex)企業の方針と管理、監督、対人関係、作業条件、給与、同僚との関係、

    雇用の保証など


・衛生要因が満たされていなければヒトは不満足を感じる。しかし、満たされたからと いって、必ずしもやる気が引き起こされるというものでもない。

 

 

次の統計は、1685人の社員サンプルです。

※仕事中に極度の満足または極度の不満足を覚えた時、その仕事の上でどのようなことが起きたのかを質問された。(諸要因の内訳は上記に例示した1、2からの選択)

(単位:%)

 

仕事への不満足に寄与している全要因

仕事への満足に寄与している全要因

動機づけ要因

31

81

衛生要因

69

19

 


※上表数値が100%を超えるのは、1つの出来事に少なくとも2つの要因が関連している ことが多いためとされます。

※「動機づける力」(モチベーションの理論と実践)17頁図表1 参照

 

【2】動機づけ要因・衛生要因のどちらも職場における人間的条件の一部であり、一方   のみが満たされたとしても、もう一方が満たされていない場合は、満足感は得ら   れないと考えました。

 

【3】仕事の充実化

  動機づけ・衛生理論によれば、人員を効率的に活用するためには“仕事の充実   化”を図るべきとされます。
  ハーズバーグは、これを従来からの用語「仕事の拡大」と区別し、当該分野で   過
去から続く失敗を正そうとしました。

a)仕事の拡大 〜 水平的職務負荷

 ex)


 @社員たちをより高い生産性へ挑戦させる。ハウスキーパーとして1日に3軒の清掃をこなしているのならば、1日に6軒の清掃にトライさせる。しかし、ゼロにゼロを乗じてもゼロである。

 

 A今の仕事、多くは定型的な事務作業にもう1つ無意味な仕事を付加する。これはゼロにゼロを加算することである。等々。

 

b)仕事の充実化 〜 垂直的職務負荷

 

原則

関連する動機づけ原因

自分の仕事に対する個人責任を増す

責任、承認

従業員が行動する際の権限を増す

責任、達成、承認

定期報告を監督者ではなく従業員本人にする

内面的承認

これまで扱ったことがないような新しい、より困難な仕事を導入する

成長、学習

※「動機づける力」(モチベーションの理論と実践)23頁図表2 参照

 

 

ハーズバーグらのプロジェクトの実験的導入。

@    プロジェクト実行班 (仕事の充実化を図る。垂直的職務負荷導入)

A    管理グループ (従来通りの方法で仕事)

B    その他、本プロジェクトと無関係のグループを2つ設ける。ただし、結果はA管理グループと実質的に同じ。


 この実験的プロジェクトによれば、即効性はない(慣れない仕事に取り組んだからか、
3カ月目までは逆に効率は低下した)ものの、垂直的職務負荷の対象となった@グループは、6カ月目の終わりにはAグループを凌駕する成績を上げ始めた、といった結果が得られたとされます。



【4】考察

 衛生要因である賃金を上げることにより、従業員のやる気をアップさせることはでき ると思われます。しかし、それだけでは短期間の効果しか望めないのではないでしょ うか?

 

 なぜなら、昇給による喜びは一過性のものであり、時間の経過とともに昇給後の賃 金が本人にとっての基準となり、より高い給与を求めるのが人間心理といえるからです。

 

 ハーズバーグがいう動機づけ要因の1つである責任についても、やはり時間の経過 とともにそれが本人の基準に落ち着くとは思います。しかし、その責任をより拡大、 いや充実させるためには、自身を磨き、会社内外から認めてもらうことが必要です。

 

 能力があれば、能力がつけば、より大きな責任権限を付与されます。たとえば、取 引における交渉時に、相手方が求める価格交渉に対し、権限の幅が狭ければ逐次上司 の判断を仰ぐ必要が生じ、交渉そのものが頓挫する可能性が高くなることはもちろん 、本人にとってもその仕事に対する満足度、充実度は満たされないでしょう。


  責任ある仕事を任される。

 自身で計画し、実行し、好結果を得ることで、従業員のやる気は格段に増すはずで す。そして、その仕事に対する報償としての賃金アップ、賞与増額、権限の拡大が伴 えば、より一層モティベーションが向上するのは自明の理ではないでしょうか。

 

 衛生要因と動機づけ要因がともに満たされ得る職場環境・制度の実現。ハーズバー グのいう2要因理論は、現在でも通用する部分は十分にあるでしょう。